『タローマン』では「〜ござあます」口調のレポーターが好きな男 アメイジングRYOです。
ベタに鷲野社長も好きですね。
「わしのビルが〜!」
「しゃちょ〜!」
70年代に放送され多くの著名人にも影響を与えた幻の芸術的特撮作品『タローマン』の劇場版がついに令和のスクリーンで見れる日がやって来た!
「こんなでたらめな映画の感想なんて書けるかな…なんて思わずやってみること。それしかないんだ」
そう岡本太郎も言っていました。
あらすじ
時は1970年。
「人類の進歩と調和」をテーマに掲げたかの大阪万博が開催されたその日に事件は起きた。
突如現れた謎の「原始同盟」を名乗る集団が万博に襲来したのだ。
応戦する我らがCBGを助けたのは未来からやって来たというロボット戦士 エラン・スカフォード。
なんとエランのいる未来には危機が迫っており、でたらめな巨人 タローマンの力を借りに来たのだと言う。
未来で開催されている宇宙大万博を救うことが現代の大阪万博を救うことにもなると知りCBG一同とタローマンは昭和100年の未来にタイムスリップ!
時を超えぶつかり合う「でたらめ」と「秩序」
べらぼうででたらめでなんだこれは!なこの戦いの行方とは果たして!
意外や意外!分かりやすいぞこの映画!

1970年に誕生し以来幻の特撮ヒーローと呼ばれ多くの人に愛されながら長らく歴史の闇に眠っていた『タローマン』。
令和になり数多くのフィルムが発見されたことをきっかけにNHKで再放送をしたところその鮮烈で、アバンギャルドで、おっとろしくでたらめなヒーロー像が我々現代人に深く刺さり瞬く間に人気を博すこととなった。
今作はそんな『タローマン』の大長編作品であり当時も劇場で公開されたもの。この度状態の良いフィルムが発見されたことで令和のスクリーンにまさかの帰還を果たした。
サブスクにも来ないし諦めていたんだがまさか今こうやって『タローマン』を映画館で見られるだなんて…
ヒーロー好きとしてこんなに嬉しいことはない!
…茶番はここまでにしよう。
このノリで最後まで書ける気がしないからな。
というわけで改めて
本作は「1970年に放映されていた伝説の特撮番組のフィルムが偶然見つかった」という体で放送されたバキバキ令和生まれの最新特撮番組。
存在しないはずの過去と記憶から生まれしNHKの尖兵。胡乱なる巨人。
『タローマン』の劇場版である。
正直第一報を聞いた時は
「なんの冗談だい?」
「あれを劇場のサイズなんかで見たら人格に影響出るよ」
「20分くらいならギリ最後まで美味しく頂けるかな?」
とか思ったもんだが続報で105分と聞いて震え上がったね。
初代『ゴジラ』より長いじゃねぇか…!
しかし私もちょっと出遅れはしたものの録画して本編は全話見たし『タローマンヒストリー』『帰ってくれタローマン』も視聴済み。
岡本太郎は分からなくても『タローマン』好きとしてヒーロー好きとしてスルーするわけにはいかなかった。
怖いもの見たさ半分で突撃したがそこで私が観たのは意外なものだった。
1970年の大阪万博を物語の軸にし、未来の宇宙大万博を救うためにレギュラーメンバーとタローマンがタイムスリップするという設定で展開される本作は前述通り尺は長めだがその100分にCBGのメンバーの掘り下げ、ド派手に暴れる新たな奇獣、水差し男爵をはじめとしたヒーローとタローマンの共演、巧みな伏線回収、やはり岡本太郎の言葉を下敷きにした骨太なストーリーとメッセージ性などエンタメとしてもシナリオとしても中々のもの。
つまり…
思ったより全然まとも!!!!!
それこそ前衛芸術か抽象画を見に行くつもりが出て来たものは具象画だったって感じ。何が言いたいのか、どういう話なのかってのは非常に分かりやすい作品だ。
なので意外とそんなに構えていかなくても大丈夫かも。
全体的なノリはTVシリーズと変わらないのにTVシリーズよりだいぶ意味が分かるし筋も通っているという不思議な作品。ちなみに映画になってもいつものアイキャッチが度々差し込まれる(パンフレットによれば15分毎)。
もう少し内容について詳しく触れよう。
舞台となる昭和100年の未来は秩序によって世界が整備され人々は常識人となり、70年と違いでたらめの存在が許されなくなってしまった世界。
未来都市は階級社会であり一流常識人間だけが都市に住むことを許され、中級常識人間は都市郊外に、そして全く常識のないでたらめ人間は汚らしい無法地帯に住まわされているある種のディストピアとなっている。
ちなみに無法地帯ではブランコ暴走族が暴れていたりする。なんだそれは。
そんな「秩序」と「でたらめ」を分ける未来にタローマンや未来人ほどモラルがないCBGのメンバーが殴り込み展開される物語の根幹にあるのは岡本太郎の「対極主義」という考え。
「対極主義」とは全く逆のものが同時に存在するその歪さや不恰好さこそが真の調和であるという考え。それは例によって高津博士によって劇中でも触れられるため分かりやすくなっている。
常識に縛られた世界を非常識なタローマンがぶっ壊し調和と平和をもたらす話って言えばかなりイメージしやすいんじゃなかろうか。もっとも本編はもっとめちゃくちゃでこんなちゃちな表現ではとても追いつかないんだが。
次にCBGの掘り下げについて。
知ってた?CBGって「地球防衛軍」の略なんだってさ。
もう「地球防衛軍」って言えよ…
このように掘り下げ云々以前に我々はこいつらを知らな過ぎるので今回描かれたのも割と基本設定みたいなものが多い。これを果たして掘り下げというのか。
ただ今作の中年隊員は印象強いね。
青年隊員や隊長はそれぞれの特技や性格が壮大な伏線になっていたりしてクライマックスを彩るし、風来坊は普通に主役級の活躍をする。
特に隊長絡みの伏線はちょっと「おお!」ってなったよ。前振りが丁寧で意外性もある。
しかし中年隊員は特にそういうのが無いんだ。
じゃあなんで印象的なのか。それはただ単に明かされた彼の人となりにある。
ハッキリ言ってとんでもないクズだったんだよコイツ。
それが進むほど色濃くなって来てどんどん面白くなってくる。無論、不快になるレベルじゃなくギャグとして楽しめるくらいにしてるのでバランスが上手い。
あと少年隊員も今回は大活躍。カルタで判明した目からビーム撃てる能力が明確に描写されるぞ!
ゲストキャラクターに当たるエランは未来からやってきたスーパーサイボーグであり今作の進行役のようなポジションを担うキャラクター。
同じサイボーグの風来坊との絡みが多く、当初はエリートで一流常識人間であることを再三誇り非常識やでたらめを見下す慇懃無礼をちらつかせるキャラだったが、とあるきっかけからでたらめに対しての考えが変わるという美味しいポジションとなっている。
映画全体で活躍の場面に恵まれており変身もするし最終的には武器にもなったりする。そのビジュアルも相まってレギュラーに負けない存在感を終始放ち続ける。
それと他ヒーローとの共演。
タローマンには存在しない前作や存在しない派生作品がたくさん存在していることを知っているね?
今作はタローマン以外にもたくさんの巨人が登場しスクリーンを更に華やかにしてくれる。特に序盤から度々活躍する水差し男爵は良かったね。
ちょっと好きになっちゃったな〜
さすが行われていないはずの『タローマン』の人気キャラを決める総選挙1位のキャラクター。ここに来て1位であったことを納得させてくるとは思わなかった。
設定がずるいのよ。1番いいタイミングで登場し水をさしていくってキャラだからそりゃ人気出るわ。
前述通り水差し男爵以外にもタローマンのピンチに数々のヒーローが駆けつけるクライマックスは信じられないかも知れないが凄くちゃんとヒーロー映画の文脈だ。
新必殺技まであるぞ!
それと最後に。今作はEDの後も見逃せない。
もちろん現れたのはタローマン大好きミュージシャン。サカナクションのボーカルにしてNHKによる過去捏造の片棒を担がされ続けた男 山口一郎さん。
無論、今回も存在しない過去をつらつらと語りながら映画に込められた岡本太郎のソウルの独自解釈をしてくれる。
最後に山口さんが取り出したのはタローマンブレスのプロット。映画劇中で青年隊員が変身に使用したキーアイテムであり山口さんが変身ポーズを決めてくれた。
…
出てねぇよそんなアイテム!
たった今観た映画の記憶は流石に改竄させねーぞ!!
脅威のレトロ特撮技術と映像のパワー

続いて今作の特撮周りの話題について。
『タローマン』は本編の頃からリアルに70年代の特撮らしさを再現するために取材協力に円谷プロを起用しながら撮影されている。
そのこだわりはかなりのもので現在では使われていないレトロな撮影方法を再現して撮られていたり実は特撮に関してはずーっとガチなのよね。
そこは映画になっても変わらず今時の特撮では逆にお見かけしない古き良き特撮技術が多分に使われている。いつも通り死ぬほど見えてる釣り糸とかね。
今作の未来世界の街並みは昭和の時代にイメージされていた未来観 いわゆるレトロフューチャーを強く意識したものとなっている。
サイケデリックな色使いで不思議な形の建物、空飛ぶ車、ビルから伸びる透明チューブ、二頭身くらいの先生ロボット…
誰もが一度は思い描いたあのキラキラした未来世界を今作は全てミニチュアで再現。
しかもパンフレットによれば材料はなんとホームセンターで揃えたんだとか。プラスチックの質感が生み出す絶妙なチープさが昭和ど真ん中のレトロフューチャーっぽさを更に引き立てている。
担当したのは安居智博さん。普段から日用品で様々なロボットやヒーローを作成している凄いクリエイターさんだ。
また今作は全編ブルーバック撮影。ロケ一切無しという『キングオージャー』みたいなことをやってる作品でもある。未来も過去も全部合成だからこそ安居さんの本物のミニチュアが映像にコントラストを生み作品に奥行きを持たせてくれた。
また新規の奇獣達についても印象的なデザインばかり。
特に今作の大ボスに当たる神話奇獣 明日の神話はいかにも劇場版の敵らしいデザインに仕上がっていてここもヒーロー映画やってるポイントの一つ。
タローマンに登場する奇獣はいずれも岡本太郎の作品をモチーフ(というよりまんま転用)にしていることは今更言うまでも無いがこの明日の神話について軽く調べると作品のバックボーンの特異性が分かり「お前めっちゃ劇場版の敵じゃん…」ってなるのが凄い。
本編以上に色彩豊かで見ていて疲れるレベルの映像パワーと素っ頓狂なシーンに仕込まれた数々の技術。そして筋が通っているとは言えそれは当社比であって俯瞰で見たらちゃんと意味不明な展開の数々が押し寄せる100分。
この映画はやはり「芸術」なのだと思わせてくれることだろう。
最大の欠点は…

最後に本作最大の欠点について書きたい。
散々書いたが本作は『タローマン』らしいカオスを内在しながら話の筋としては分かりやすく、ちゃんとヒーロー映画としても成立している。
詰まるところ本作の評価は「綺麗にまとまっている」ってことなんだけど…
それこそが最大の欠点でもあると思うんだ。
これはあくまで私個人のやつなのでみんなに分かって貰えるかは謎なんだけど
『タローマン』に綺麗さは求めてない!
理解なんて出来なくていい!!
もっとめちゃくちゃにしてくれ!!!
でたらめにしてくれ!!!!
ってのが率直な思い。
意味不明を100分もやるわけには行かないから分かりやすい話の筋があるし起承転結があるしメッセージも分かりやすい作品になってしまった。
稀代の怪作たる『タローマン』がそれでいいのか(まあメッセージに関しては本編もストレートに伝えてるか)?
意味分からなすぎて一切付いていけないみたいなレベルを、TV本編を初めて見た時の「意味わかんないけどおもしれー!」を期待してしまっていたんだな私は。
話は面白い、ヒーロー映画然としてる、笑える場面も多い、本編のカオスは忘れられていない、映像力はピカイチ
しかしそれでも『タローマン』の大長編にしてはあまりに綺麗にまとまり過ぎているってのが最大のネックだったと思う。
が、私のこの感想って多分噛み砕けば「TVみたいのを見たかった」ってことなんだよな。
いわば不変を求めた感想。
「同じことをくりかえすくらいなら、死んでしまえ」
これはTV本編4話のサブタイトルにもなっている岡本太郎の言葉だ。
製作陣は同じことを繰り返さないために敢えてちゃんとした大長編に挑み新たな『タローマン』を描いた。
やはりどこまでも制作陣は岡本太郎の言葉に突き動かされるままに作品を作り上げたのだ。
自分の感想が間違いとは思わないが、『タローマン』という作品が岡本太郎という存在、その思想を伝承するためにあるのならきっと制作は正しいことをしたんだと私は思う。
…真面目な話はさておき普通に中盤は微妙に退屈だったかな。クライマックスが面白いから溜めの時間ではあるんだけど。
あと度々差し込まれるミュージカルパートは賛否分かれるんじゃないかな?
日本人ってミュージカル好きじゃ無いし。
シンプルに尺も長い!もうちょい短くしてくれるとありがたい!映像のパワーと70年代を意識した特有の音声でちょっと疲れる!
総評
というわけで『大長編 タローマン 万博大爆発』でした。
とんでもない「なんだこれは!」を求めていたが蓋を開けると思いの外控えめな「なんだこれは!」に肩透かしを食らったものの一本の映画として綺麗にまとまっている逸品。
映画という映像芸術の中にこれでもかと仕込まれた様々なまた別の芸術が爆発し本編譲りの荒唐無稽っぷりをたっぷり楽しめるが鑑賞の際には少々気合いの必要な作品となっているので心身ともに健康な時に観に行きましょう!
観るのが怖い?
「いいかい、怖かったら怖いほど、逆にそこに飛び込むんだ」
そう岡本太郎も言っていた。
それではまた
おまけ

「そう。パンフレット購入者にさり気なくリピートを強要してくる巨人 タローマンである。」


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